北欧神話の本
偶然とは何か―北欧神話で読む現代数学理論全6章
原題は"Au hasard: La chance,la science et le monde"。『偶然とは何か』との邦題を
与えられてはいるが、その問いに対して決定的な答えを与えるテキストではない。 「偶然は、ローマ神話の双面神ヤヌスのように複数の顔をもっている。その多面的な豊かさを わたしは書きたいと思った」。 そうした著者の意図に沿って、北欧の神話を導入にして、量子力学や株式相場など現代的な 具体例から、偶然の有する複雑な表情をエッセイタッチで端正につづる。 「偶然」「運命」「カオス」などの表題の下、サイコロになぞらえて全六章から構成。 偶然とはそもそも人間の無知がそう見せているに過ぎず、すべては神の思し召しのままに 仕組まれた必然でしかないのか? 「クレオパトラの鼻がもう少し低ければ……」とのブレーズの嘆きよろしく、現在する世界は 他のありようを取り得た。しかし事実「他のようではなく、まさにこのようにあるという、 理屈も必然性もない、そのあり方」を取っている、この不条理。 たとえ決定論を逃れたところで、われわれはすぐさま確率論に出くわす。この両極のいずれ でもない、第三の道を人は果たして持ちうるのか? etc... 確かに、エクランドの提示するサンプルの多くは20世紀的なものであるかもしれない。 ただし、議論の核となる部分に関しては、とりたてて新しい視点は感じられない。それこそ 文中にも登場するパスカルやライプニツがこの主題については散々語っているわけで、もっと 言えば、因果律や自由の問題は古代ギリシア以来哲学2500年の歴史が誇る18番。 現代数学理論、との副題に従って手に取ると思わぬ肩透かしを食らうので、その点は注意を 促しておく必要があろうかと思う。 基本的には数学の知識はなくとも、一定程度の論理的な思考さえ備えていれば、軽やかに 読める一冊。いずれにせよ、非常に面白い一冊であることには違いない。
副題に「現代数学理論」とあるように、もちろん数学理論について述べられているのであるが、話はそこで終わらない。それと密接に関連して、哲学的考察がなされるのだ。
乱数、算術的生成法、指数関数的不安定性、中心極限定理といった数学的理論が説明されるのだが、それが「数学は不条理を超越できるか」「世界に意味があるとは」「わたしたちが生きるこの世界とはいったいどのような世界なのか」という哲学的考察につながっていく。 数学と哲学は表裏一体ではないかと感じられる。
サブタイトルには、「現代数学理論」などと厳めしい題がついているが、内容は極めてわかりやすい一般数学書。数学書といっても、数式はほとんど出てくることはなく、どちらかというと、思想体系で議論展開していく、記号意味論などのスタイルに近い。
「偶然性」の象徴である、サイコロの出目に習って(実際筆者はこのサイコロの偶然性も議論しているのだが)、6章立てで話が構成されている。「偶然」「運命」「予想」「カオス」「リスク」そして「統計」だ。 本書で特に特徴的なのは、これらの数学理論が、実際の現実世界にどのように投影できるかを、わかりやすい例(北欧神話)と共に議論展開されていく点にある。 扱っている項目は6章それぞれに異なるわけだが、本書は一貫して、「この世界を数学によって完全に記述するということは可能なのか、幻想なのか」というテーマを追っている。偶然性が支配するように「見える」この世界も、実は我々の知らない決定論が支配しているのではないか、いや、その可能性があるとしたら・・・という議論をわかりやすい数学議論で展開していく本書、ぜひ一度手にとって見ることをお勧めする。読後はきっと、自分なりにこの世界を考えてみたくなること請け合いの一冊である。
北欧神話の本偶然とは何か―北欧神話で読む現代数学理論全6章
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