スペイン旅行記・滞在記の本
スペインのBARがわかる本―グラナダ・バルの調査記録報告書
いわゆる「第3の場所」としてのコミュニティレストランやカフェ、バーへの注目が集まる中で、本書はそのひとつのモデルとしてのスペインのバルを取り上げた、興味深い本となっています。
著者の川口剛氏は都市工学・建築畑を経験後、現在は食とまちづくりを考えるNPO「まちばる」を札幌で主催しているという経歴の持ち主です。 著者はスペイン・グラナダのバルを回り、店の造りやメニューから来客の行動調査まで、ひたすらバルのもつ独特の空間とそこを訪れる人々を描き出します。 そして著者は、地域のコミュニティの一部としてのバルの重要性を発見していきます。 タイトルからは堅い調査論文を思い浮かべる方もおられると思いますが、本書は決してとっつきにくい本ではありませんし、かといって底が浅いわけでもありません。単に読み物として面白いだけでなく、コミュニティ論・まちづくり論の面からも数多くの知見が得られるかと思います。 もちろん、「そういった堅い話題はどうでもいいから、スペインに興味があるんだ」という方にもお勧めです(笑。
この本は真面目にして肩の凝らないスペインのバルガイドブック。スペインのバルについてまとめた本ってそういえばこれまでなかったな。その意味で大変目のつけどころが良い。しかも、目のつけどころが良いだけに終わっていない。この本の面白さはつぶさな調査と分析力にある。
筆者はバル調査の地にグラナダを選ぶ。その理由。「一つは約30万人の人口を持つグラナダという街が、大都市特有の治安の悪さを有するほどには大きすぎず」なおかつ「その一方で都市独特の猥雑性が失われるほどに小さすぎず」しかもひとりの調査にはちょうど良い面積であると考えたからだそうである。全くその通り。しかも、最もわたしが膝頭を打った箇所は「都市の猥雑性」という表現である。あー、がぜん、突然、わたしも1ヶ月くらいグラナダに住んでみたくなった! バルの立地の分類や、タパスの調査も面白いが、ハイライトはバルに集うおやじ達の行動調査。なんといってもバルの妙はハシゴの妙に尽きる、のではあるが、だからといってあろうことか、ある特定のバルを出た客が次にどこへ行くか、なんとひとりずつ追跡調査を行い、行動分布図を作成したのである。(よく野生動物の調査なんかで行われるように。)その根性には恐れ入ります。発想の面白さを確信していたからこそやり遂げることが可能だったのだろう。 前書きを読めば著者の川口さんは都市学やコミュニティ論を勉強していた人らしい。なるほどね!これまでスペインに長期滞在する日本人といえば、画家とかフラメンコダンサー、ギタリスト、またはテキヤさん(?)などある意味視点が似てそうな人種が多かったのだが(ちなみに私もスペイン在住経験者です)、コミュニティ論がバルと出会うとこんなに面白いことになるのである。 かく言うわたしも毎年マドリッドに行く目的は、バルで無駄な時間を過ごすため、と言っても過言ではないくらい。
スペインの風土、人、生活、町並みが、スペインのバルという切り口からよく伝わりました。なんだかむしょうにスペインに行ってみたくなりました。スペインに行ったことがある人は、思い出がよみがえるのではないでしょうか。紀行文として読んだり、バルという店作りという視点から読んだり、はたまたスペインの食に注目したり。
視点を変えて何度も読める楽しい本はなかなか珍しいと思います。
2000年に1ヶ月あまりスペイン南部のグラナダに滞在した著者が、数々のバルに通って書き上げた一冊です。
副題には「グラナダ・バルの調査記録報告書」とあります。この副題は、調査研究機関が本格的で大規模なリサーチをかけた末のリポートという印象を与えますが、内容は決してそういう大仰なものではありません。副題の与える印象はとりあえず措いたほうがよいでしょう。おおざっぱに言ってしまえば本書は、著者の個人的な「バル偏愛紀行文」という一品です。著者はひたすら一人でバルに立ち寄っては、その店の様子をスケッチしてみたり、スペイン人のお客同士のおしゃべりを立ち聞きしてみたりしてこの本を書いています。 時に著者は、バルで飲食を終えて店を出たお客たちの後をこっそりつけて、彼らが次にどこへ行くかを確かめます。そして実に84%のお客が、バルを出た後は半径300メートル以内のどこかに向かうということを割り出すのです。このことから著者は、バルと地域の人々が密接な関係にあると結論づけます。この一項は興味深く読みましたし、こまめに足で取材した著者の努力を私は評価します。 とはいうものの、本書はもう少し気楽に読んで良いでしょう。バルとはそもそもどんなところなのか、何が食べられるのか、何が飲めるのか。そういうバルについて基礎的な情報は十分得られると思います。 最後にひとつ苦言を。著者は本書のいたるところで「オヤジ」という言葉を幾度も使っています。バルの主人ばかりでなく年配の客に対してもこの言葉を使っているのですが、読んでいて大変不快でした。まだ30歳になるかならないかという若い著者が、こういう風にこの言葉を連発したことをやがて後悔する成熟さを身につけてくれることを願っています。
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